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福岡高等裁判所 昭和48年(行コ)8号 判決 1976年8月31日

長崎市片渕町二丁目五九番地

控訴人

大塚泰蔵

右訴訟代理人弁護士

芳田勝己

長崎市魚の町六番一号

被控訴人

長崎税務署長

大塚悟

右指定代理人

武田正彦

亀山良満

井口哲五郎

大神哲成

江崎福信

江崎博幸

本田義明

小柳淳一郎

右当事者間の所得税ならびに加算税の更正および賦課決定取消請求控訴事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決中、被控訴人が昭和四二年五月三〇日控訴人に対してなした昭和三七年度分の確定所得税納税額三四三万七四三〇円、重加算税一〇三万一一〇〇円ならびに昭和三九年度分の確定所得税納税額五〇〇万一一三〇円、過少申告加算税四、三〇〇円、重加算税一四七万四五〇〇円とする各更正および賦課決定の取消請求を棄却した部分を取消す。右各更正および賦課決定を取り消す。訴訟費用中請求にかかる部分は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに立証は、控訴人において甲第二五号証、第二六号証の一、二を提出し、当審証人宮津芳通の証言および控訴本人尋問の結果を援用し、後記乙号各証の成立を認め、被控訴人において乙第五五号証の一、二、第五六号証、第五七号証を提出し、前記甲号各証の成立(甲第二五号証は原本の存在とも)を認めた外は原判決事実摘示中控訴人に対する昭和三七年度および昭和三九年度分関係部分と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所も被控訴人のなした控訴人の昭和三七年度分および昭和三九年度分の所得税確定申告に対する更正および賦課決定は正当であり、その取消しを求める控訴人の請求は排斥すべきものと判断するが、その理由はつぎに付加する外は原判決理由中昭和三七年および昭和三九年度関係部分と同一であるからここにこれを引用する(ただし原判決五六丁表六行目から七行目にかけての「昭和三七年、同三八年が各三回、昭和三九年が五回」とあるのを、「昭和三七年が三回、昭和三八年が二回(被告主張事実のうち高比良慶次に対する貸金二〇〇万円は新規のものでなく、前年度貸付金一、七〇〇万円の未払残額と認められる。)、昭和三九年が三回(宮津芳通に対する貸金合計五〇〇万円は新規のものではなく前年度から繰越したものと認められる。)」と、訂正し、同一一行目の「が多いこと」のつぎに「前記各貸付金については何れも担保を徴していないこと」を挿入し、五八丁表七行目の「譲渡所得関係」とあるを「雑所得関係」と訂正する。)。

二  成立に争いのない乙第一七ないし二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第三七号証、第四一号証、原審証人高比良慶次の証言から成立の認められる乙第一六号証、当審証人宮津芳通ならびに控訴本人の原審および当審における尋問の結果を綜合すれば、控訴人が昭和三七年から昭和三九年まで前記引用にかかる原審認定の金員を貸付けたのは、控訴人が利息収入を主たる目的としたものであったことは明らかである。

しかしながら金員貸付行為が所得税法上の営業行為に該当し、右による所得が営業所得と認められるためには、金員の貸付けが利得の目的でなされたというにとどまらず、右行為が計画的、組織的に行われ、継続反覆するものでなければならないところ、原判決認定のような控訴人の本件貸付けの回数、相手方その他の態様からみても、末だ右の要件を満たす貸金営業と目することはできないところである。

またこの点について、国税庁長官の所得税関係基本通達九三号が存在し、貸金業に該当するものと認むべき例示の一として、他から借入れた資金を貸付けている場合を挙示していることは控訴人主張のとおりであるが、控訴人が本件貸付け資金を他から借り入れたことを首肯するに足りる証拠はなく(被控訴人が所得計算上、収受した利息から銀行金利を基礎とした額を必要経費として控除したのは、一般に所得を挙げるためには何らかの経費が必要と目されるところ、控訴人の右に関する申告がないため、控訴人の利益のため貸付け資金を銀行から借入れたものと仮定して経費を計上したにすぎず、借入れの事実が存在したためではなかったことは弁論の全趣旨から明らかである。)、もともと右通達は税法解釈を統一してその賦課事務の円滑をはかるための内部的処理基準としての機能を有するだけで、所得税法と独立に金融業の構成要件を定めているものではないことは通達の本質上理の当然であるから、右通達の一部に符合するというだけで控訴人の所為を営業行為と認めることはできない。

三  されば、原判決中本件控訴部分は正当であって、本件控訴は棄却を免れず、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松村利智 裁判官 諸江田鶴雄 裁判官 森林稔)

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